医師に刑事責任を問うことは、医療を崩壊させるということかもしれない

近年、医療上で起きた「事故」により、尊い命が失われたとき、
医師が、なんらかの刑事責任を問われるような「事件」が起きるようになりました。

もちろん、医療上の「事故」は、あってはならないことであり、再発を防ぐために
早急に有効な対策が取られるべきではありますが、はたして、
担当の医師に刑事責任を問うことが、最善の策といえるのかどうか。

疑問に感じるところです。

・・・

福島県の大野病院の産婦人科で、
帝王切開手術の際、大量出血が原因で、産婦さんが亡くなられるという
悲しい出来事がありました。

のちに、この時執刀を担当した産婦人科医師に対して、
「この帝王切開手術において、医療上の過失は無かったか?」と、
訴えられることになったのです。



・・・

産婦さんは「前置胎盤」で、さらに、一部癒着(=癒着胎盤)があったため
胎盤がなかなか剥離できませんでした。

出血が起きるのは、胎児を娩出後、胎盤を剥離するときで、
この際、通常よりかなり多い出血がありました。

この時、執刀医が
「胎盤を剥離したこと」と、
「剥離の際、クーパー(手術用のはさみ)を用いたこと」が
適切ではなかったのではないか?という指摘を受けました。

・・・

結論から言えば、昨年11月末に行われた
「大野事件・第10回公判」において、このどちらとも
医師の裁量権の範囲の医療行為であるとされ、帝王切開術において、医療上適切なものであったという判決になる可能性が、かなり高くなりました。


・・・

しかし、この「大野事件」が、現場の医師たち(特に産婦人科医)に残した
爪痕は深いものがあります。

「大野事件」で指摘された、二つの事柄があります。

『胎盤を剥離したから、出血が止まらなかったのではないか?』

・・・これは、第十回公判で触れられていますが、胎盤娩出後の子宮というのは
何もしない状態であっても、水道の蛇口を開いたように出血している状態なのだそうです。

私は、出産経験者ですが、通常の経膣分娩の場合、胎児が娩出した後で
自然に、胎盤は全てきれいに娩出されます。

胎盤が完全に娩出したのが、まるで合図であるかのように
妊娠で大きくなった子宮(子宮のもともとの大きさは鶏の卵くらい)は、
急速にもとの大きさに戻るために収縮します。この収縮が起きることで
水道水のような出血は、徐々におさまってくるのです。

(これは、産後しばらく続きます。この収縮による痛みを後陣痛・・・などといいます。)

・・・ところが、胎盤の一部が子宮壁に癒着していると、すんなりと剥がれず
ほうっておいても、いつまでも胎盤は出ず、子宮内に残ったままの状態になります。

子宮内に胎盤が残っていれば、子宮の収縮は促されず、出血も収まりません。
この場合、人工的に胎盤を剥がす必要が出てきます。

・・・人間の体というものは、実によくできたものだと改めて感じることです。

そしてこの、「良く出来た自然な仕組み」は、
おそらく帝王切開手術であっても、同じように起きるのでしょう。


帝王切開手術において、この時、執刀医が胎盤を剥離したのは、胎盤を剥がすことにより「自然の仕組み」がうまく起きて、出血がおさまることを「予測」したからでしょう。


もう一つ、

『クーパー使用が適切であったかどうか?』

これに関して、私は医療従事者ではありませんが、産科の現場では、癒着した胎盤を剥離する際に、ごく一般的に使われているものだそうです。

もともと、胎盤を剥離した子宮はなにもしなくても、水道水のように出血している状態ですから、クーパー使用がどうという問題ではないと、考えられそうです。

・・・

しかしながら、大野病院でのこの「事件」以降、
福島県の産科の現場でのクーパー使用が、『禁忌』とされているということです。

・・・

しかし、たとえ後で、適切な医療行為あったと立証されても、やはり、
『クーパーを使用したから』と指摘されたこと、不幸にも産婦さんがなくなったこと、
そして、執刀医が法廷に訴えられたという事実が、消えることはありません。

医者だって、人間です。

医療は、ある意味、半分手探りで行われる部分も多々です。

大野事件のように、自然にあたりまえに起きることが、起きない・・・ということが、
医療現場で、今後全くないとは言い切れません。

想定外はいつでも起こる可能性があり、そういう事態であっても、医師は確実に、命をすくわねばならないという「使命」を背負い、現場で仕事をしています。

・・・

『あのときの、これが問題だった(そうしなければ、助かった)』

そのように、適切な医療行為上で起きた不測の事故においても、刑事責任が問われるようであれば、医師は自らの医療行為に、自信が持てなくなってしまうのでは、と危惧します。

医師の裁量権(適切な医療行為である)の範囲内においての事故であるなら、
その場合において、刑事責任は問われないことが、医師の権利を守るために、また
安心して医療行為が行われるために、重要ではないかと考えます。






2008/01/06(日) | 医療事故調査関連 | トラックバック(-) | コメント(2)

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azuki

『』

春野ことり先生

コメント、ありがとうございました。

医療関係者でない者が医療を語ることに迷いがあって、ここしばらく更新が滞っていました。先生のブログで、志村さんの記事を読ませていただいて、深く共感したと同時に、勇気をいただけたような気がします。


このような記事を取り上げていただけるなんて、なんだか、身に余る思いで恐縮しています。
ありがとうございます。

2008/02/04(月) 16:37:07 | URL | [ 編集]

春野ことり

『』

azukiさん、素晴らしい記事をありがとうございます。この記事、私のブログで紹介させていただいてもよろしいでしょうか?
よろしくお願いいたします。

2008/02/04(月) 09:39:01 | URL | [ 編集]

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